社会の羅針盤…○○主義


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第1回 『自由と民主主義をもうやめる』佐伯啓思 幻冬舎新書098

 

 「うちの会社も売上が右肩下がりだし、『構造改革』が必要だな」と某会社の取締役の方が酒場で声をあらげてた。コロナの影響もあり、愚痴が出るのも理解できる。でもその方の言う『構造改革』て具体的に何を意味しているのか、いつか聞いてみたい気がした。

 

 佐伯さんは本書の中で、自由主義や民主主義それ自体を批判するのではなく、無条件にそれらを祭り上げてしまう日本人に警鐘を鳴らしている。自由とは何か、政治的な自由もあれば、経済的な自由もある。自由が推進されることでどんな社会の到来をイメージしてるのか、ちょっと考えてよと。また民主主義も多少の良識が参加者側に欠けていれば、その社会の行方は「衆愚政治」ですよと。

 

 加えて、佐伯さんは自由主義や民主主義の土台を重要視する。それはその国の歴史であり、文化であり、価値観だと言う。このような立場を「保守主義」と規定し、ただの現状維持の立場とは一線を画すとしている。

 

 大学生時代にポスト冷戦時代の国際政治の名著『歴史の終わり』がフランシス・フクヤマによって書かれた。冷戦の勝利は人間の理性の万能を信じる進歩主義の勝利だと自由主義陣営のバイブルのように取り扱われていたが、副題の「ラストマン」にあるように、実際はその後の社会の価値観そして人間のありかたに興味を示していたと思う。

 

 進歩主義による技術主義や合理的精神を中心とするアメリカ文明の勝利はその後どのような社会を構築したのだろうか?アメリカ人は今、幸せなのか?国際社会はより平和になったのたのか?傍目には「no」という返事が帰ってきそうです。そこには一夜の熱狂的陶酔感もうかがうべくもない。

 

 日米関係で見れば、80年代の日米貿易摩擦、90年代初頭の日米構造協議、そしてその結果の構造改革は、まさしく進歩主義に基づくすべての生産要素の世界的な市場化である。ちなみに「構造協議」の英訳はstructual impediments initiativeで素直に訳せば、「構造的な障壁(を米国の)イニシアチブで取り除こう❗」となる。あ~あ、グローバル化とはこのようなものなのだろうか?政策パラダイムとしての新自由主義やワシントンコンセンサスといったグローバル化の波はもう元には戻れない。

 

 目的達成してしまった後の喪失感は大なり小なり理解できる。グローバル化という多幸感(ユーフォリア)の後には「ニヒリズム」が登場する。佐伯さんは「ニヒリズムは最高の諸価値の崩壊」とニーチェの言葉を引用する。そしてこの「ニヒリズム」との戦いが「保守主義」の課題であると指摘する。

 

 続いて「保守主義」の中核として「愛国心」の必要性を説く。「愛国心」は軍国主義とイコールではなく、自らの国に対する価値判断ができ、何が大切なのかを考えられ、自国に対する責任を持つことだと言う。そうしてはじめて民主主義か機能するのだとも。

 

 愛国心の深掘りはここではしないが、国・社会の構成員として、歴史や文化といった知恵を身につけ、グローバル化の無秩序・ニヒリズムの時代にどんな自由を求め、どんな民主主義(政治参加)を求めるべきか、社会の窓を開けて一人一人が考えてみなければならない。これはグローバル化の時代を生きる我々への宿題みたいなものですね。

 

 不確かだが、ケネディも「国家が何をしてくれるのかではなく、国民として国家に何ができるのかを考えよう」とその就任演説で言ってましたよね。戦後75周年、幸か不幸か、この夏は色々考える時間もありそうだ。

 

 最後に、会社の『構造改革』を訴えた取締役さん、もしそれが遂行されたら、まず最初に首伐られちゃうのはあなたですよ…会社のお金で毎晩、浮気相手の飲み代まで支払わせてるんだから(笑) 人の上に立つ者なら、自ら発する言葉の意味そしてその作用まで意識してもらいたいものです。

 

 

 

社会の窓を開けてみよう

第0回 今だから窓を開ける

 

 社会人になると本を読む時間がめっきり減る。学生時代は授業の資料も含めて週に何冊も和洋問わずに読んでいたのに…

 

 大人になって酒場での人生の先輩たちによる政治・経済・宗教などの話を聞くにつけ、社会科学的素養のありがたさや、メディアやSNSに対するリテラシーの重要さを痛感します。

 

 やはり自分の頭で考えることが一番。大学の授業だって、まずは先生の言うことを疑え!て教わったし(笑) そのきっかけとして、既読の有無に関わらず、良書と判断した本を軽く紹介しながら、読後の感想を徒然に書いてみるつもりです。

 

 分野は政治・経済・社会学の他、あまり専門的な物でなく、日本語でしかも現在も購入可能な物とします。新書レベルを念頭に置いてます。ゴルフやグルメ関係はインスタに任せます。まぁ、中部銀次郎さんの本は哲学かも知れませんが(笑)

 

 さて前置きはこれくらいにして、次回からはじまる『ハカセ社会の窓』が、未来の自分・日本・世界のことを考える一助となれば望外の喜び(藤井君風に)であります。

 

2020年8月15日 戦後75年目の猛暑の日